「フューチャリスト宣言」を読んで

梅田望夫さんと茂木健一郎さんのフューチャリスト宣言、先週の日曜に届きまして読み終えましたので感想を書きます。

フューチャリスト宣言 (ちくま新書)

未来は予想するものではなく,創り出すものである。そして、未来に明るさを託すということは、すなわち、私たち人間自身を信頼するということである。
私たちが人間を信頼すればするほど,未来は明るいものになっていく。(以下略)
「はじめに」より

対話を繰り返す中で私たち二人は,「この本は、細部をつついて批判するのがバカバカしいような明るい本となる」と予感し,そういう本にしたいと思った。(以下略)
「おわりに」より

まずこの本に出てくる「フューチャリスト」がどういう人を意味するかですが、それはこの本を全部読まなくても上の文章を読んでいただければわかるかと思います。上の文章にこの本のいいたいことが詰まっていると思います。そういえば,茂木健一郎さんが出演している「プロフェッショナル・仕事の流儀」に出てくる方々は皆フューチャリストであるような気がします。私があの番組に惹かれるのも、「自分もフューチャリストになりたい」という思いがあるからだと思います。私もフューチャリストを目指して進んで生きたいと思います。未来が明るいものであることを信じて。

  • 「二つのフィールド・ワーク」

この本を読み終えて一番先に思い浮かんだ言葉は「フィールド・ワーク」という言葉でした。私が学生だったのはもう10年位前のことですが,その頃のゼミの担当教授によく言われた言葉は「フィールド・ワークをしなさい」ということでした。これば、本ばかり読んで学んだつもりになるなということであり,言い換えれば「事件は現場で起きている」ということでした。この本には「2つの別の世界」「もう一つの地球」という言葉が出てきますが,これからの人々は2つのフィールド、すなわちリアルの世界とインターネットで学ぶことが出来,生きていくことができるということだと思います。それが、すなわち「二つのフィールド・ワーク」ということだと思います。しかも、これは義務ではなくて権利,二つのフィールドで「生きていかねばならない」のではなくて「生きていくことが出来る」。しかも,梅田さんがおっしゃっているように,リアルの世界では失敗してもネットの世界で再チャレンジできる。それは、素晴らしいことだと思います。

  • ネットへのアクセスは教育を受ける権利そのもの


この本の目次の中で「ネットへのアクセスは基本的人権」という題のものがありました。私の学生時代の専門は教育社会学でしたが,この本で梅田さん、茂木さんが言っていることを考えてみると「ネットへのアクセスは教育を受ける権利そのもの」ということになるのかと思います。ネットが出来るまでは,人々が学ぶ方法としては学校に行くか,人に会うか,本を読むくらいでした。どれをするにしても,時間的な制約や空間的な制約がありました。よって,今までは人が一生で得られる知識というのは,かなり限られたものだったと思います。ネットの登場により,その制約が壊されました。しかも、「ロングテールの法則」により、どんなにマイナーなことでもネット上では必ず誰かが書いている。そう考えると,これからはネットに接続できるかどうかで人が得られる知識の量がかなり変わってくる。今までも不登校の学生が学校に行かずに,大検に受かることはありました。これからは,そういう例がかなり増えてくるのではないかと思います。もしかしたら,学校に行かずにネットで勉強して学者になるような人が出てくるかもしれません(もう出ているかもしれませんが)。そう考えると,ネットへのアクセス権の重要さがわかります。


なぜここまでネットへのアクセスにより学ぶことができるようになったかというと,それはこの本にかかれているように検索が進歩したからだと思います。梅田さんの「ウェブ進化論」のなかで、「グーグルは『世界政府が開発しなければならないシステム』を作成しようとしている」という話がありましたが,グーグルがやろうとしている「世界中の知の再構成」を「世界中の人々に平等に知識を得る機会を与えている」と考えれば,それはまさしく「世界政府」がやらなければいけないことで,そう考えるとグーグルという企業のすごさを改めて思い知らされます。

この本は今週の火曜に読み終わってその時点で感想を書こうと思っていたのですが,1回読んだだけでは読みが浅いような気がしたので,木曜にまた読み始めました。2回目を読み終わったところで,「『ウェブ進化論』『ウェブ人間論』を読みたくなってきたので,2冊を拾い読みしてみました。3冊通して「フューチャリスト」としての梅田さんの立場は一貫していました。そして、3冊の本はそれぞれでも読む価値があるけれど,3冊すべてを読むことでさらなる意味が出てくるのではないかと考えました。私なりに3冊の関係を整理すると,以下のようになりました。『ウェブ人間論』が『ウェブ進化論』に対するアンチテーゼの本というのは、ちょっと私の深読みのし過ぎかもしれませんが。

インターネットの登場により,世界は面白い方法に変化しようとしている『ウェブ進化論』(テーゼ)

確かに,インターネットには明るい面と暗い面がある『ウェブ人間論』(アンチテーゼ)

でも、私たちがインターネットがある世界を明るいものに変えようと思わない限り、世界は明るいものにならない『フューチャリスト宣言』(ジンテーゼ

また3冊読み終えて,『ウェブ進化論』『ウェブ人間論』に対する印象が変わりました。特に印象が変わったのは『ウェブ人間論』です。この本は,梅田さんと平野啓一郎さんの対談の形をとっていますが,もしかして、梅田さん自身が言いにくいことを平野さんの口を通して言っていただいている,そういう本なのかなと思いました。


いずれにしても、1冊だけ読んでも3冊まとめて読んでもかなり価値のある本です。『ウェブ進化論』『ウェブ人間論』を読んだ人も,そうでない人もぜひ読んで欲しい本です。