今年26冊目 あの戦争は何だったのか

あの戦争は何だったのか: 大人のための歴史教科書 (新潮新書)

ロンドンには「戦争博物館」というものがある。ここには第1次大戦以降の戦争の歴史が淡々と展示されている。ナチスドイツの制服や武器といったものまでもドキュメントとしてある。しかし、非難めいて展示されているわけではない。また館の入り口には館長の言葉として、こう書かれている。「展示をしっかりとご覧ください。全て現実にあった出来事です。そして後は自分で考えることです。」

本書より

著者がこの本を書いた目的は、「はじめに」にあるとおり「あの戦争は何を意味して、どうして負けたのか、どういう構造の中でどういうことが起こったのか」を明らかにすることです。そして、その結論は「あとがき」に以下のようにかかれています。

わかりやすく言おう。あの戦争の目的は何か、なぜ戦争を選んだのか、どのように推移してあのような結果になったか、あの時代の指導者は結局は何一つ説明していない。(後略

この本を読むと、先の戦争がいかに無意味・無目的で感情論的であったかがよくわかります。戦力分析の甘さ、海軍と陸軍の確執、等々。ひとつ残念なのが、日本軍が捕虜に関する国際条約を知らなかったこと。知らなかったからこそ、日本軍は敵兵を虐待・拷問し自分たちもそのように扱われると考え、玉砕・自決したのかもしれません。もし捕虜に関する国際条約が日本軍に知れ渡っていたら、戦争に負けても各地での玉砕・自決はなかったのではないかと思うと、非常に残念でなりません。

さて、この本を読んで先の戦争について私は認識を新たにしたことが2つあります。ひとつは、太平洋戦争の開戦が海軍主導であり、東條英機も海軍の意向を気にしていたということ。特に官僚が黒幕としていたこと。もうひとつは、先の戦争の終結日は国際的には9月2日であることです。ちなみに、9月2日は重光葵外相が降伏文書に調印した日です。

最後に、著者も書いているとおりこの本は先の戦争を「大東亜共栄圏による肯定論」「侵略戦争であるという否定論」という善悪二元論から離れ客観的に書いています。ですので、先の戦争について知りたいという人であればどのような立場の人でも、この本から得られる何かがあるのではないかと思います。